横浜を走る、世界が変わる。2025.10.26 sun

第1回 糖とマラソン

給水おじさんと一緒に解き明かす、疲労の謎と走りのコツ

みなさんこんにちは、八田です。

今年の箱根駅伝で、学生連合チームの9区古川大晃選手(東京大学大学院博士4年)への給水を、私が担当したことで話題になりました。それが横浜駅前だったことから、横浜マラソンに応援ゲストにというお誘いをいただきました。加えて私の専門の運動生理学の観点から、マラソンについての連載コラムを書くことになりました。まず初回は糖についてです。

私たちが生きているということは、エネルギーを生み出しているということです。そのエネルギー源は何かというと主として、糖と脂肪です。糖は脳の主たるエネルギー源でもありとても大事ですし、また水にも溶けて使いやすい性質があります。
では、糖だけあればよいのか、というと実は私たちの体内の糖の量は多くはありません。
糖はたくさんあると、困ることがあります。糖尿病というのは血液の糖が多すぎてしまう状態ですが、そうすると血管がダメになるなどのことが起きてしまいます。
私たちはグリコーゲンという形で糖を貯めていますが、その量は身体全体で500グラム=2000キロカロリーくらいしかありません。1日に使うカロリー程度です。
それでたくさん糖を使うとすぐ減ってしまい、血糖値が下がってしまうので、安静時などは脳以外ではあまり糖を使わない様にしています。
しかし運動するというのは多くのエネルギーを使うことですから、どうしたって使いやすい糖の利用量も増えます。運動強度が上がると余計に糖の利用が増えていきます。
42キロもの距離を走るマラソンでは、後半になると糖が減ってくることになってしまいます。そうすると単に主要なエネルギー源が足りなくなるという以上に、筋の力発揮が負の影響を受けます。
筋肉の収縮に必須のカルシウムの働きが、グリコーゲンが減ると悪くなってしまうからです。
30キロの壁と呼ばれるようなマラソン後半の速度低下には、このグリコーゲンが減ってしまうことが大きく関係しています。
ただし、もちろんグリコーゲンの低下だけが30キロの壁の原因ではなく、他にも多くの原因が考えられます。
例えばマラソンを走る間、数万回にわたり脚は体重を受け止めていて、そのたびに体重の数倍くらいの負荷がかかりますので、筋肉に小さな傷がたまっていってしまって力が出せなくなってくることも考えられます。

次回は、この糖が減ってしまうことにどう対処したらよいのか、また乳酸との関係についてお話します。

今年の箱根駅伝

最後に気楽にランニングのことも書くことになりました。
まずは今年の箱根駅伝についてです。
古川君は博士4年29歳にして、箱根駅伝を走るという夢を実現させました。
途中2箇所で給水を受けられますが、大学院生ですからチームメートが多くありません。
そこで誰からもらったら力が出るかと思って、私のことが浮かんだようです。
給水係を12月に依頼された時は驚きました。
彼を横浜駅前で待っている時、周りの給水係は細身の現役部員ばかりの中で、白髪長身の私は目立っていたようです。
古川君が走ってきて、水、スペシャルドリンクと無事渡せました。その後走り去ろうとする古川君を後ろから激励しようと思った時に、思わずガッツポーズになっていました。
全く意図したことではなく、テレビに映っていることも全くわかりませんでした。
終わってたくさんメールが来始めて、多くの話題にしていただいて本当驚きました。それだけ箱根駅伝の注目度の高さがわかりました。
29歳大学院生が走り、65歳教授が給水ということで、多様性を示せたならば良かったと思います。

思わずガッツポーズ